Report11 Kumagaya City
暑さ対策を生かした安全衛生の取り組み 熊谷市
取り組みのポイント
- 衛生管理者の資格取得を促進し適正な推進体制を維持・確保
- 熱中症対策、節電対策など市の暑さ対策を踏まえた安全衛生を実践
- 産業医が毎月1回の職場巡視を実施し職場環境の把握と相談業務をPR
平成19年に40.9度という当時の国内最高気温を記録した熊谷市は、「暑いまち」として全国的に知られています。同市では、暑さ対策や夏季節電対策等の取り組みを積極的に展開していますが、安全衛生活動においてもその視点が生かされています。また、産業医による月1回の職場巡視や職員の健康保持増進を目的とした「健康ひろば」の毎月発行等の堅実な活動を実践し、日々安全衛生の向上に努める熊谷市の取り組みを紹介します。
1 衛生管理者の資格取得を計画的に促進
熊谷市の安全衛生は、本庁舎衛生委員会、消防本部衛生委員会、環境美化センター安全衛生委員会の3つの委員会により展開されています。このうち、本庁舎衛生委員会は、保育所や行政センターなどの出先機関も対象とする最大規模の委員会です。事務局である職員課を中心に、職場巡視や健康相談、安全衛生教育などの様々な取り組みを推進しているほか、安全衛生管理体制を適切に維持するため、衛生管理者の計画的な確保等にも取り組んでいます。職員課人事係主査の宮沢 隆律氏は「第一種衛生管理者資格取得に係る費用を毎年度3名分予算措置し、有資格者を一定数確保しています。様々な部局、年代に有資格者がいるので、異動に伴う欠員が生じることはありません。」と力強く語りました。
熊谷市安全衛生管理体制
職員の人選は該当部署からの推薦ではなく、職員課において職員を特定し、受験を促します。その理由について、宮沢主査はこう語ります。「年代の偏りがないよう、職員課において、29~33歳の主任級以上の職員を選定しています。20年以上継続しているので、現在、部長級から主任級職員までほぼ全ての階層で有資格者が揃っています。」
また、本庁舎衛生委員会が職員650名を抱える大規模な事業場であることから、その運営にあっては、職員課を中心に関係部局の主管課が連携を図りながら進められています。具体的には、教育委員会に係る職場にあっては教育総務課が総括的な役割を担うなど、本庁舎衛生委員会内で一定の役割分担のもと、効率的な運営が行われています。
このように、熊谷市では衛生管理者の養成、確保など法令に基づく体制の維持・確保や、委員会内の役割分担、連携のもとで実効性のある活動の展開を図り、適切な安全衛生の推進に努めています。
安全衛生管理体制等に係る事務を担当する宮沢主査
2 熱中症対策や節電ノー残業デーなど暑さ対策を実践
夏の気温が高い熊谷市では、市民とともに暑さ対策や節電対策等に取り組んでいますが、その視点は、職員の安全衛生にも見ることができます。例えば、熱中症対策は、例年6月から職員への呼びかけ等が行われています。保健師で職員課厚生研修係主査の杉山 恵己子氏は、「熱中症は暑さへの抵抗力が弱い6月にリスクが高まります。このため、毎年「健康ひろば」の6月号に熱中症に関する情報を掲載し、注意喚起に努めています。平成24年度からは、適切な予防に役立ててもらうため、熱中症のかかりやすさを自己診断できるセルフチェック表も掲載しています。」と啓発の概要を語りました。
毎月発行される「健康ひろば」
6月号には熱中症セルフチェック表を掲載
長時間労働対策の一環として、市は毎週水曜日をノー残業デーとしていますが、5月から10月まで期間は「節電ノー残業デー」として水曜日と金曜日の週2日実施しています。定時退庁が実践されているかどうか、各職場での取り組み状況を節電推進員が監視するという徹底ぶりです。また、環境美化センター安全衛生委員会ではエコドライブの研修を実施しています。エコドライブは、やさしい発進を心がけたり、無駄なアイドリングを止める等をして燃料の節約、CO2排出量の削減に努める環境に配慮した自動車の使用のこと。市ではハンドル、アクセル付きのドライブシミュレーターを使ってエコドライブの市民向け講座を実施していますが、同委員会ではこれを職員向け研修に取り入れ、ごみ収集車両でのエコドライブを実践しています。
このように、職員を熱中症から守る取り組み、職員がエコ対策を実践する取り組みなど、熊谷市らしい暑さ対策を踏まえた活動を展開し、安全衛生の向上を図っています。
ドライブシミュレーターを使用した安全運転・エコドライブ研修の様子
3 産業医による職場巡視を全課で実施
労働安全衛生規則では、産業医の選任義務がある事業場について、毎月1回以上の産業医による職場巡視を規定しています。しかし、医師が多忙なこともあり、これを適切に実践できている地方公共団体は多くありません。こうした中、熊谷市では産業医による毎月の職場巡視が実施されています。巡視先は主に本庁舎及び3つの分庁舎です。1年間で全課を回る計画を作成し、これに基づき実施されています。毎月の実施、全課の実施について、杉山主査はこう語ります。「産業医は職員の健康相談にも応じていますが、職場の様子が分からないと適切な対応ができないとの考えから、産業医自らが率先して巡視を行っています。巡視の際には、相談案内のチラシを配布しながら巡回することもあります。職員にとっても産業医の顔を知ることができるので、心身の不調や不安があった際に相談しやすくなるという効果も期待できます。」
産業医巡視のほかに健康相談やメンタルヘルス対策を担当する杉山主査
巡視は、まず、所属長へのヒアリングからスタートします。職場環境や所属長自身の健康状態、職員の健康状態などについて、産業医が聴き取りを行い、おおよその状況を把握した上で点検が行われます。結果については、庁内イントラネットを活用して全庁に周知するなど情報共有を図るとともに、整理・整頓など他の職場にも共通する指摘事項については、全庁的な取り組みとして職場環境の改善を促しています。
産業医による職場巡視の様子
アドバイザーより一言
全国一、二の猛暑の街、熊谷市の安全衛生は暑さ対策が大きな課題となりますが、様々な暑さ対策を通して、職員の熱中症対策の知識も高まっているといいます。
5月から10月までの間は、「節電ノー残業デー」として、通常の水曜日に加え金曜日にも定時退庁を促進し、長時間労働対策に努力されています。
産業医の職場巡視では、所属長面談を実施することにより、詳しい職場状況が把握でき、医師の視点から職場への適切なアドバイスに生かせるものと思います。
また、巡視で活用するチェックリストは、ぜひ、巡視結果の見える化や改善対策の水平展開に役立ててください。
メンタルヘルス対策としては、精神科医による相談や職員向け研修等が行われています。保健師による随時の健康相談や「健康ひろば」の毎月発行といった地道な努力もあり、ここ数年、100時間を超える超過勤務者や長期休職者が減少してきています。
今後は、ストレスチェックの法制化等をきっかけに、職場の4Sや健康対策の充実について、より多くの職員で話し合い、暑さに負けない更に活気のある熊谷市の職場をつくり出してください。
中央労働災害防止協会 関東安全衛生サービスセンター
安全衛生管理士 山口 昇二