Report6 Matsuyama City
国の動向を見据えて安全衛生活動を推進 松山市
取り組みのポイント
- 国の動向を見据えて要綱等の整備と支援体制の充実を図り、メンタルヘルス不調による長期病休者を削減
- 現場のある安全・衛生委員会では、巡視コースを反対にする等現場業務を踏まえた安全衛生の取り組みを実施
各地方公共団体では、職員のメンタルヘルス不調を防ごうと、色々な取り組みを行っています。それにもかかわらず、不調者がなかなか減少しない団体があるのも事実です。しかし、松山市は県内団体の中でも、最もメンタルヘルス対策の充実を図り、着実に長期病休者を減らしています。国の動向を見据えた体制整備により、職員の安全衛生を推進する松山市の取り組みを紹介します。
1 国の動向を見据えたメンタルヘルス対策の充実
国は、平成12年にメンタルヘルス対策に係る総合的な指針を策定し、それ以後、さまざまなメンタルヘルス対策を実施してきました。そのような流れの中で、松山市は、国が平成16年10月に職場復帰支援に係る手引きを策定したのに合わせて、平成16年12月に「松山市職員の職場復帰訓練実施要綱」を策定するなど、国の動向を見据えてメンタルヘルス対策の一層の充実を図ってきました。
平成17年度には1市1町との合併を機に、合併による編入者や管理監督者、新規採用者等を対象に職業性ストレス調査を実施してメンタルヘルス不調の防止を図りました。平成22年度からはメンタルヘルス研修を実施し、メンタルヘルスへの全庁的な理解を促進させ、平成23年度には管理監督者のためのメンタルヘルスガイドブックを作成しラインケアを徹底、平成24年度からは新規採用者を対象に年3回のメンタルヘルスチェックを開始しています。
日々、安全衛生の向上を図る職員厚生課長の
兵頭 信氏(右)と同課の田中 敬司主幹(左)
また、対策を実施するための人員増加も行い、現在では職員厚生課に常勤保健師が4名配置されています。職員厚生課主幹の田中 敬司氏はこう語ります。「国がメンタルヘルス対策を進める中で、市でもメンタルヘルスに力を入れないといけないという機運が高まりました。それで、さまざまな取り組みとともに人員も増やして、県内でもトップと言ってよい体制が整えられたと思います。」
各年度のメンタルヘルス対策実施状況
年度 | 取り組み | 体制 |
---|---|---|
平成16年度 | 新たなメンタルヘルス対策要領、及び職場復帰訓練実施要綱策定 | |
平成17年度 | 職業性ストレス調査実施(合併による編入者・管理監督者・新規採用者等対象) | |
平成18年度 | メンタルヘルスケアマニュアル作成 | 常勤保健師1名増員 (2名→3名) |
平成22年度 | メンタルヘルス研修開始(管理職・一般職対象) | 常勤保健師1名増員 (3名→4名) |
平成23年度 | 管理監督者のためのメンタルヘルスガイドブック作成 | |
平成24年度 | 新規採用者に年3回メンタルヘルスチェック開始 |
2 メンタルヘルス対策を支えるヘルスルーム
地方公共団体の中には、要綱・要領の策定やマニュアル等の作成を行いながら、保健師等の専門スタッフが少ないため、職員への支援等が十分でない場合も見受けられます。しかし、松山市では、職員厚生課に置かれる「ヘルスルーム」に配置された4名の常勤保健師が、メンタルヘルス対策を支えています。
「ヘルスルーム」の保健師の皆さん
前列左から田中 優妃子副主幹、菊池 貴子氏
後列左から大野 陽子氏、枡見 恵主査
特に、平成16年度に職場復帰訓練実施要綱が策定されてからは、病気休暇中の職員に対する手厚いケアに取り組んでいます。職員厚生課副主幹の田中 優妃子氏はこう語ります。「病休から休職になってしまうと、本人にさまざまな不利益が生じます。このため、職場復帰訓練実施要綱に基づき、病気休暇中に職場復帰訓練を行うなど、病休期間の対応にかなり力を入れて取り組んでいます。職場復帰訓練によって本人、所属、主治医等との情報共有がしっかり行えるようになりましたので、復帰に向けて皆が同じ方向に進むことができます。」
そして、4名の常勤保健師がいる「ヘルスルーム」は、明るく開放的な雰囲気で、職員が気軽に訪れています。随時、健康相談を受け付けていますが、田中 優妃子副主幹は「電話相談のほかに、こちらにちょっと立ち寄って、立ち話での相談も結構多いです。相談に来た職員は、気がかりなことを話すと安心して、気持ちを切り替えて職場に戻っているようです。」と職員が気軽に訪れる様子を語りました。
明るく訪れやすいヘルスルーム
「ヘルスルーム」が気軽に利用されていることは、相談件数の多さからも伺えます。平成22年度から24年度まで、メンタルヘルスに係る保健師への相談件数は、年間平均で実に5,400件を超えています。
病休・休職中の手厚いケアや階層別のメンタルヘルス研修、4名の保健師に気軽に相談できるヘルスルームなど、平成16年度以降、積極的にメンタルヘルス対策に取り組んだ結果、平成23年度からメンタルヘルス不調による長期病休者は、全国的な平均を下回るとともに、減少に転じています。
松山市と全国のメンタルヘルス不調による長期病休者率(千人率)
※全国の数値は(一財)地方公務員安全衛生推進協会の資料による
長期病休者…休業30日以上又は1ヶ月以上の療養者
3 現場業務を踏まえた安全衛生の取り組み
松山市には、本庁安全衛生委員会を始めとして、13の安全・衛生委員会が置かれています。その中でも現場業務に携わる所属で組織される安全・衛生委員会では、それぞれの現場業務を踏まえた安全衛生の取り組みが行われています。
例えば消防局では、4つある委員会の全てが月1回委員会を開催し、公務災害の発生事案等についての議論・検討を行っています。交通事故に関する報告は、「発生状況」「原因」「対策」が簡潔にまとめられた上、最後に「図面」で車両位置等が示されており、概要が理解しやすい資料を作成・配付しています。4つの委員会は、ほぼ週1回職場巡視を行い、特に西消防署委員会の職場巡視では、巡視コースを反対にして危険箇所等の見落としを防ぎ、出動時の安全確保を図るなど、現場業務を踏まえた取り組みが行われています。このような取り組みによって、消防局職員の公務災害発生率は、平成22年度から平成24年度まで平均4.4件(千人率)となり、同期間の全国平均9.1件((一財)地方公務員安全衛生推進協会の資料より)の半分以下となっています。
その他、久米中学校衛生委員会では、全教職員に対して年2回、独自のメンタルヘルスアンケートを実施しています。平成23年度からは、アンケートに労働時間の項目も入れて、メンタルヘルスの状態と労働時間をクロスさせた分析が行われ、教職員の衛生状況把握・改善のために活用されています。
これらの各安全・衛生委員会独自の取り組みにより、松山市では一層の安全衛生の向上が図られています。
アドバイザーより一言
生活習慣病予防や職員健康相談、及びメンタルヘルス相談等の健康管理活動が計画的に実施されています。特に病気休暇中における職場復帰の支援等、早期の復帰を支援する取り組みの充実は、長期病休者数の削減につながっています。また、日頃からヘルスルームに気軽に相談できることは、不調防止に大事な役割をはたしています。これらの衛生活動は良いものですので継続ください。
安全活動では、小規模職場でも公務災害の発生等がありますので、法令に準じた体制を作り、安全衛生管理の水準を高めることをお勧めします。全職場にヒヤリハットの情報共有や危険予知活動、指差し呼称等を導入することで、安全状態で安全行動を実施できる人づくりを計画的に進めることができます。
また、具体的な安全活動実施計画の作成や毎月1回以上の安全・衛生委員会の開催等、総合的管理を進めて、一層の安全衛生管理のレベルアップを目指してください。
中央労働災害防止協会 中国四国安全衛生サービスセンター
安全管理士 原岡 義彦